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鸿运国际感染症の剖検肺組織の解析

掲載日 鸿运国际4年3月4日(金)10:00~10:30
場所 和歌山県立医科大学 生涯研修センター研修室(図書館棟 3階)
発表者 分子病態解析研究部  教授 橋本 真一
             助教 岩淵 禎弘
外科学第2講座    教授 山上 裕機

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発表内容

概要

鸿运国际感染症(COVID-19)が原因で亡くなった患者の剖検肺組織における、各肺葉の詳細な解析を実施することは、コロナウイルス(SARS-CoV-2)の肺組織における動態などの理解に繋がる。我々は1人のCOVID-19剖検肺組織の各部位における詳細な解析により、COVID-19の感染初期から後期における臨床経過を1つの剖検肺組織で見出せることを示した。肺の気管支の先端には肺胞という膜と毛細血管に富んだ小さな袋があり、呼吸によるガス交換の役割を担っている。病態が非常に進んだ肺組織では、肺胞を構成する細胞の一つである"基底細胞"の異常な増殖を認めた。この基底細胞は水溶液の交換に関わるアクアポリン3(AQP3)分子を強く発現しており、AQP3はがん細胞の増殖にも関わる分子である。基底細胞の異常な増殖メカニズムがCOVID-19の重症化に繋がったことは、この病態の解明の一助となり、今後の新たな治療法の開発に進むことが期待される。本研究成果は2022年2月16日(米国時間)に、国際誌Frontiers in Medicineに発表された。

1.背景

COVID-19によって障害を受ける肺組織において、SARS-CoV-2が気管支、肺胞に存在する2型肺胞上皮細胞(AT2)や内皮細胞で発現が高いアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)により細胞に感染する。COVID-19の症状は、個々のACE2発現、免疫細胞の分布およびその機能により回復度が異なる。2020年初頭からこれまでに世界中でCOVID-19に対する生検サンプル、血液細胞などを用いた包括的な遺伝子発現解析が行われており、病態進行メカニズムも理解されつつある。しかし、これまでに1人のCOVID-19患者様由来の肺組織の各部位における詳細なSARS-CoV-2発現分布、免疫細胞および各種遺伝子発現解析などは行われていなかった。

2.研究成果

本院で病理解剖されたCOVID-19患者様の剖検肺組織を用いて調べた結果、1)肺上葉よりも肺下葉にかけて病理学的に肺炎症状が悪化していた、2)SARS-CoV-2は肺下葉よりも中葉で多く検出された、3)SARS-CoV-2受容体であるACE2は肺中葉から下葉で発現が高かった、4)マクロファージなど免疫細胞は肺中葉で、T細胞などは肺下葉で発現が多い傾向であったことなどを観察した(図1)。このように肺組織の部位別の詳細な解析によって得られた結果は、病態の進行を反映していると考えられた。

(図1)

図1

各肺組織において、遺伝子発現解析を実施し、どの細胞が各肺葉で増えていたのかを調べた。その結果、気管支などの基底膜に存在する基底細胞(注1)が肺下葉で増殖していることを見出した(図2)。他の報告でケラチン5(注2)を発現する基底細胞の肺組織での異常な増加については論じられているが、我々は従来のCOVID-19による肺炎悪化メカニズムではまだ提唱されていない、アクアポリン3(AQP3)発現細胞の増殖も病態進行の原因の一つであることを見出した(図3)。アクアポリンはがん細胞の増殖に関与することが示唆されている。今回、基底細胞が、肺胞周囲で未分化のまま増加していたが、アクアポリン3阻害剤により基底細胞の増殖が抑制されることを細胞培養系の実験で確かめた。

(図2)

図2

(図3)

図3

3.結論および波及効果

我々はCOVID-19重症化においてAQP3陽性基底細胞が肺下葉で異常に増殖したことを新規に発見し、今後、この基底細胞の増殖抑制をターゲットとしたCOVID-19重症化抑制の新たな治療法の開発が進むことが期待される。一方で、剖検肺組織からSARS-CoV-2に対する抗体を特定した。この人工抗体を作製してSARS-CoV-2に対する中和活性を調べた成果に関する論文を投稿準備中である。本研究成果の概略を図4に示す。

(図4)

図4

4.掲載論文

掲載誌 Frontiers in Medicine
題目 Immune Cells Profiles in the Different Sites of COVID-19-Affected Lung Lobes in a Single Patient.
著者 Iwabuchi S,  Miyamoto K,  Hatai M,  Mikasa Y,  Katsuda M,  Murata S, Kondo T,  Yamaue H and Hashimot S.
URL https://doi.org/10.3389/fmed.2022.841170

5.補足説明

注1 基底細胞:肺における上皮系組織幹細胞と考えられており、気道上皮、気管支などに存在する。
注2 ケラチン5:表皮などの上皮細胞に発現する細胞骨格タンパク質である。